古くは「日本書紀」に唐から献上された記録があり、中国から伝えられ、貴族のあいだで使われていたことが知られる。「春日権現霊験記」第7巻に老僧が蚊帳をつって寝ている絵があり、侍女は蚊帳の外で寝ているのを見ても、鎌倉時代には高貴な人だけに使われたのであって、庶民に使われたのは江戸時代にはいってからである。材料としては古くから麻が使われ、高貴な人には絹の紗も用いられた。

奈良の蚊帳の生産(商業生産)は、はっきりした資料がないが、江戸中期にまでさかのぼることができる。当時麻の産地であった添上郡柳生村邑地で始まったといわれている。農家の家内労働として蚊帳製造がおこなわれた。これがだんだんと広まり、江戸末期には奈良市近辺でも生産が開始されるようになった。